以下は厚生労働省が公開している情報をもとにした一般的な整理です。個別の現場で何が必要かは、作業内容・測定結果・地域の運用によって変わります。実務上の判断は、所轄の労働基準監督署・産業医・労働衛生コンサルタント等の専門家にご確認ください。 C-VER は通信機の販売・レンタルを行う事業者であり、安全衛生の指導や診断を行う立場にはありません。
騒音性難聴とは何か
大きい音にさらされ続けることで、耳の機能が損なわれて起こる難聴です。労災保険の世界では、労働基準法施行規則の別表に位置づけられた業務上疾病のひとつとして扱われています。
厚生労働省の認定基準(昭和61年3月18日 基発第149号)は、この病気の性質を次のように整理しています。
聴力障害は高音域から始まり、初期の段階ではオージオグラムが c5dip の型(4,000Hz 付近に限局した聴力障害)を示す。一般に両側性であり、騒音下の作業を離れるとほとんど増悪しない。
— 騒音性難聴の認定基準について(昭和61年3月18日 基発第149号)の要旨ここに現場での怖さが凝縮されています。会話に使う音域より先に、高い音から静かに失われるため、本人も周囲も気づきにくい。そして「騒音下の作業を離れるとほとんど増悪しない」ということは、裏を返せば離れても戻らないということです。進行は止まっても、失った分は残ります。
また同じ認定基準では、騒音にばく露される業務を作業者の耳の位置における騒音がおおむね85dB(A)以上である業務、「長期間」をおおむね5年またはこれを超える期間と定めています。ここではじめて、85dB という数字が出てきます。
85dBという境界線
85dB は、労災の認定基準だけでなく、日々の管理の側でも基準として使われています。厚生労働省の「騒音障害防止のためのガイドライン」は、平成4年(基発第546号)に策定され、令和5年4月20日(基発0420第2号)に改訂されました。
このガイドラインは、対象となる作業場を2つの別表で示しています。
- 別表第1— 8つの屋内作業場。労働安全衛生規則に基づく作業環境測定の対象となる作業場です。
- 別表第2— 52の作業場。等価騒音レベルが85dB以上になる可能性が大きい作業として掲げられています。
そして、作業環境を改善する措置を講じた結果、第Ⅰ管理区分とならない場合、または等価騒音レベルが85dB未満とならない場合は、労働者が騒音作業に従事する時間の短縮を検討することとされています。機械を静かにできないなら、その場にいる時間を削るという考え方です。
事業者に求められていること
ガイドラインが求める管理は、大きく3つに分かれます。順番にも意味があり、まず環境を変える、次に働き方を変える、最後に人を診るという優先順位で組み立てられています。
| 区分 | 内容 | 頻度・タイミング |
|---|---|---|
| 作業環境管理 | 等価騒音レベルの測定と、結果に応じた作業環境の改善 | 6月以内ごとに1回、定期に |
| 作業管理 | 従事時間の短縮の検討、聴覚保護具の使用 | 測定結果に応じて |
| 健康管理 | 騒音健康診断(医師による) | 雇入時・配置替えの際/その後6月以内ごとに1回 |
健康診断ではオージオメータを用いた聴力検査を行い、雇入時等の健康診断では 250・500・1,000・2,000・4,000・8,000Hz の各周波数について調べます。低い音から高い音まで確認するのは、前述のとおり高音域から先に落ちるためです。
なお定期の健康診断は、第Ⅰ管理区分に区分されることが継続している場所、または等価騒音レベルが継続的に85dB未満である場所で業務に従事する労働者については省略できるとされています。測定して85dB未満であることを示せている現場は、健診の負担も軽くなるという構造です。
「遮音しすぎない」保護具という考え方
意外に思われることが多いのが、聴覚保護具の選び方です。ガイドラインは、遮音値が大きければ大きいほど良いという立場を取っていません。
必要以上に遮音値が大きいものは避け、安全のために周囲の音を聞き取る必要がある場合や、会話が必要な場合を考慮して選ぶこととされています。理由ははっきりしていて、耳を守った結果、重機の接近音や退避の呼びかけが聞こえなくなっては本末転倒だからです。
「耳は守りたい。でも、必要な音と声は届いてほしい」——これは保護具だけでは解けない要求です。遮音を上げれば会話が消え、会話を優先すれば耳が削れる。この二律背反をどう扱うかが、騒音下の現場の実務的な難所になります。
見落とされがちな悪循環
もうひとつ、現場でよく起きているのに対策の議論から漏れやすいのが、「聞こえないから音量を上げる」という循環です。
- 周囲がうるさく、無線の声が聞き取れない
- 聞き取るために、イヤホンの音量を上げる
- 耳元の音圧が上がり、耳が疲れる・痛くなる
- 聞き取りづらさが増し、さらに音量を上げる
このとき耳が受けているのは、環境騒音そのものではなく、伝えるために自分たちで足した音です。作業環境測定の数字には表れにくく、しかし確実に耳に届いています。大声で怒鳴る、近くまで行って叫ぶ、聞き返してもう一度叫ぶ、というやり取りも同じ性質を持っています。
通信機にできること・できないこと
ここは、はっきり線を引いておきます。
| 内容 | |
|---|---|
| できない | 無線機は聴覚保護具ではありません。作業環境測定・騒音健康診断・保護具の代わりにはならず、環境騒音そのものを下げるものでもありません。補助金の対象になることや、法令上の措置を満たすことを保証するものでもありません。 |
| できる可能性がある | ノイズキャンセル(ENC)と高遮音イヤホンの組み合わせにより、音量を上げ続けなくても声が届く状態をつくること。同時通話により、聞き返し・怒鳴り・呼び戻しといった「伝えるために足していた音」を減らすこと。保護具を着けたままでも会話が成立する運用に近づけること。 |
C-VER が提案しているのは、この右側の一列だけです。それ以上の効果を主張することはしません。実際にどの程度効くかは現場の騒音・作業内容・機種の組み合わせによって変わるため、レンタルやデモで実際に装着して確かめていただくのがいちばん確実です。
なお、高年齢労働者の労働災害防止の観点からの設備導入には、エイジフレンドリー補助金が候補になり得ます。対象可否は用途・要件により個別の確認が必要です。
よくある質問
何dBから対策が必要になりますか?
騒音性難聴は治りますか?
健康診断はどれくらいの頻度で必要ですか?
無線機を入れれば騒音対策になりますか?
どこに相談すればいいですか?
出典
出典
- 厚生労働省「騒音障害防止対策」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/anzeneisei02_00004.html
- 「騒音障害防止のためのガイドラインの改訂について」(令和5年4月20日 基発0420第2号) https://www.mhlw.go.jp/content/001089239.pdf
- 「騒音障害防止のためのガイドライン」パンフレット(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/content/001195349.pdf
- 「騒音性難聴の認定基準について」(昭和61年3月18日 基発第149号) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc0351
- 職場のあんぜんサイト「騒音対策」(厚生労働省) https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo73_1.html